すべてが終わった後、袖に手を通し髪を整える
さっきまで見知らぬ男性達に囲まれていた記憶は
丁寧に畳まれて引き出しの奥へしまわれたかのようだ。
鏡の前で口角を少し上げる。
その笑顔は、日常に戻るための合図だった。
ホテルから一歩外に出ると足取りは軽やかになった。
日常に戻った彼女の髪は秋の光をまとっていた。
お店を選ぶ指先も、歩幅も、どこか弾んでいる。
いつもより明るい声で僕の名前を呼び、他愛ない話を次々と差し出す。
カフェの新作、通りで見かけた犬、次の休みの予定。
話題は軽く、風のように流れていく。
ディナーの席では、写真を撮っては笑い、甘いデザートを分け合った。
何気ない瞬間に僕の袖をつまみ、視線を合わせる。
その仕草は自然で、数時間前までの影を感じさせない。
街を歩きながら、ショーウィンドウに映る二人を見て、
満足そうにうなずく姿に、彼女自身も安心しているようだった。
立ち止まり空の色を眺める。
彼女は深呼吸をひとつして、

今日も楽しかったな
と、つぶやいた。
胸の奥にしまったものが、ふと小さく鳴る。
それでも彼女は微笑みを崩さない。
日常は、笑顔で続けると決めたから。
帰り際、腕を組む彼女は甘え上手で
まるで ”何もなかったか” のように、夜へ溶けていった。



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